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禁書“名を削られた”詩篇 第一一二頁 七六章



 石柱の庇護を受けた蒼い月の門を通り
 例外たる招かれざるものが現れた
 元より人としての形をして
 元より人としての尊厳を持ち

 石柱の祝福を受けた紅い月の門を通り
 正当たる約束されしものは現れる
 元の人とは異なる形をし
 元の人とはほど遠い意思を持ち

 ありとあらゆる欲の河が
 枝分かれする以前に欲するものを本能とするのなら
 善悪の区別なく 隔たりなく 無為に混じるが故 引き剥がすこと叶わず
 罪はなく 徳はなく 背徳でなく 善行でない
 一つであり全てである願いを叶えるためだけに脈動す

「私は人になりたい」
(人は素晴らしいから)
「私は人でありたい」
(元は人であったのだから)

 紅い月の門の先に待つのは
 名状し難い姿の存在感
 蒼い月の門の先にあるのは
 何ら変わらぬ人の姿であると言うのに

「私は人になりたい」
「その願いこそ罪なのだ」
「私は人でありたい」
「その姿こそ罰なのだ」

 約束されたものが門を潜る時
 招かれざるものも門を潜る
 世界に二つが現れた後
 やがて二つは一になる

 蠢くように定まらない紅い月
 佇むように完成された蒼い月
 紅を目にした蒼はしかし
 他の何にそれを伝えることなく
 他の誰にそれを遺すことなく

 やがて蒼は紅になる
 そして紅は蒼に近付く

 一つが一つを飲み込んで
 二つが一つとなっていく

「私は人になりたい」
(蒼い援助を身に受けて) 
「私は人でありたい」
(蒼の魂滴を飲み込んで) *1

 いずれ白い月の門が開き
 いずれ中身がやって来る
 蒼い形を取り込んで
 白い心を宿すなら
 紅は人へとなるだろう

 そうしてこの世界は成り立っている
 そうして訪れるものは成り立っている

 されど彼らは
 彼方にいる彼の写し身
 此方にいるのは分け身
 実物を模った似せ者
 
 やがて幻想が潰えれば
 夢が覚めた後の一瞬の記憶を残し
 全て消え行く定めである

 真似た世界
 端から命はなく
 元から存在していない



――――“黒く塗りつぶされた”Nameless



 *1 援助・魂滴=エール

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