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最後のヘイブン



 俺はミスタスに来ていた。最近はたびたびここを訪れている。ジュカたちからアーケインジェムを奪い入手するためだ。ロングがオーガやトロル、リザードマンたちの根城だったころのことを、俺は知らない。かつてアーケインジェムが必要になればロングを訪れていたものだが、そこからジュカ達が姿を消してからはここに来るようになった。
 もっとも、それほど頻繁に神秘の宝石を取りに出向くようなことはこれまでしていなかった、任務に付く時間の絶対量が、格段に減ってしまったのだ。奪われてしまった。職務のほとんどが。
 家路に着く道すがら、仲間達の笑顔が頭をよぎった。
 まだ雪化粧が残っていた頃のこと。
 警備が交代の時間になると、手が開いた仲間達で集まって、酒場で飲んだ。もう定番となった先輩の、圏外まで誘い出され、大量のGEPで身包みはがされた昔話、ドブネズミのほんの僅かなgpを狙う冒険者に睨みつけられた同僚の愚痴。
 笑顔ばかり浮かんでくる。本当に他愛もない話をしながら、皆で笑った。
 幸福だった。そして同時にそれはあたりまえだった。

 その日俺は。
 久しぶりの休暇で任務を離れていた。ヘイブンにはいなかった。
 何が起こったんだ。
 俺のような一介の衛兵には真実はおろか調査究明に当たっている人間達の得た情報すら入ってこないが、恐らくはブラックロック。
 なぜ俺はあの時同じ部署の上官の支持を無視して黒ローブの密売人たちを捕らえなかった! 彼らに嬉々として黒い塊を差し出し続ける冒険者達をなぜ力ずくで止めなかったんだ!
 俺がたとえそれで職を追われても、仲間達は、ヘイブンは守られたかもしれないのに。
 ……そんなことはないのかもしれない。未来は決まっていたのかもしれない。そのとき同僚達は、先輩は、それでもヘイブンに残ったのだろうか。何か意図があってそのとき、俺に休暇を割り振ったのだろうか。
 その日のこと、彼らの様子、俺に掛けられた言葉。よく、思い出せない。
 思い出させてくれ。俺にあの日のことを。あの運命の日の事を。
 俺は必死に記憶に手を伸ばそうとする。まだ季節は一回りもしていない。
 (なのに)

「……暖かい思い出ばかりだ」
 久しぶりの任務に就く。ヘイブンゲートは、今はニューヘイブンゲートと呼ばれている。ここが俺達に残された唯一の場所だ。俺が警備を許されるのは、護ることが出来るのは、今はもう、ここだけだ。
 ゲートの周囲に現れたリザードマンが、武器を構えたのが見えた。
「己の蛮行に後悔するがいい!」
 圏内に踏み込んできた1体に、剣の一閃をくれてやる。
「相変わらずだな……」
 まるで何も起こらなかったように、今までと変わらぬ光景が繰り返された、後、そっと持ち場を抜け出す。小島の南端、 岬の端っこで、
 俺はこっそりと泣いた。 

 

The End

 

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