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a ferry man at The Skara Brae
スカラブレイの渡し守



1.

 ちゃぽん・ちゃぽん…

 それはある暑い夏の日の午後。
 小船の脇腹に小さな波が打ち寄せ、陽光のきらめきを残して穏やかに揺らめく。
 大陸の向こうに遠く霞み、海峡の波間にまるで浮かんでいるかのように見える小さな島が彼の生まれ故郷だ。
 柔らかくうねる海は雲ひとつ無い青空を映してどっぷりと深く、青く。

 ちゃぽん・ちゃぽん…

 帆のない手漕ぎの船は一筋のロープで桟橋に括り付けられ、ゆらゆらと定めなく漂う。
 船底で寝そべった少年は顔の上に麦わらの帽子を被せ、午睡の内にまどろんでいる。
 ギラギラと照りつく射るような夏の日差しは彼の麦わら帽子の網目から差し込み、少年の日に焼けた顔を所々眩しく照らしている。
 何の変哲もない、いつもの昼下がりだった。
 少し大きく船が揺れると、少年は顔に被せていた麦わらをぱっと取り、瞬時に起き上がった。
 目の前の桟橋の上にはがっしりとした体格の男が屈みこみ、少年の船を繋いでいるロープの端を右手で掴んでいた。

「ぼうず、スカラブレイまで渡りたい」

 男はそう言うと、親指を立てて彼の背後にある積荷を振り返ることなく指し示した。

「お安い御用です」

 少年ははきはきと答えると揺れる小船の上でバランスを取ってから桟橋に飛び移った。
 男を手伝って積荷を小船に運び込むとロープを外し、キィコキィコと自慢の船を漕ぎ出した。
 レンジャー風の軽装の男は眩しそうに海の上の日差しに目を細め、行き先の島を眺めている。
 大陸から離れるにつれ、ゆっくりと進む小船はただ単に海の上に漂っているだけのようにも感じられる。
 それでも少年は一向(いっこう)に近づいてこない島に向って一所懸命にオールを漕いでいた。
 レンジャー風の男も少年の仕事に文句も言わず、彼の積荷と共に船上の一角を陣取り無言で島を見つめ続けていた。
 やがて男が口を開く。

「ぼうず、この仕事は楽しいか?」

 少年は顔いっぱいに噴き出してきた汗を片腕で拭い、ふぅふぅと息を弾ませながら答えた。

「んにゃ。でも他にできる仕事もねえし。島と大陸を結ぶムーンゲートができてからは船を使うお客さんも少なくなっちまったけど……ま、昼寝も釣りもできるし、いいかなって思ってる」

 海に熱を奪われた潮風が2人の間を吹き抜けてゆく。

「そうか」

 男はそれだけ言うと積荷の1つの麻の袋からよく使い込まれた弓を取り出した。
 弓弦(ゆづる)の張り具合を確かめるかのように弦を爪引く。
 ビュンッ、と空気を切り裂く音。
 男はまたその麻の袋から矢筒を取り出すと数本の矢を入れ、背中に装着した。

「おじさんはレンジャーギルドの人かい?」

 スカラブレイは大自然の理(ことわり)を知り尽くしたレンジャー達の町。
 しかし町が栄えると共に失われていく島の限られた自然は、独自の文化を築きあげてきたレンジャー達を大陸へと追いやってしまった。
 現在、多くのレンジャーギルドは海峡を渡った大陸側にある。彼らは時に小さなテントを構え、幾日も鹿や熊を追った。
 その多くは弓の名手であり、信じられないような遠方から正確に矢で獲物を射る技術を身につけていた。

「あぁ」

 言葉少なに答える男。男の目は次第に近づいてくる島をじっと見つめ続けている。
 少年は立派な弓を横目で見やりながら、キィコ・キィコと船を漕ぎ続けた。
 やがて男は5本の矢を取り出した。
 その内の1つを右の指の間に持ち、弓に番(つが)えるときりきりと弦を引き絞った。
 ぐいぐいと撓(しな)り、緊張を高めた弓はビョォォッ!と風を切り、番えられた矢を島に向って撃ち放った。

「ぅわぁー…」

 少年はキィーーーンと甲高い音を立てながら柔らかな放物線を描いて島の方へと吸い込まれていく矢を見つめた。

「すごい。何て遠くまで飛ぶんだ…」

 少年は一人呟いた。男は残りの矢を次々と番え、同じように島に向って撃ち放った。
 5本の矢を撃ち終えると男はまたじっと島を見つめ、 暫くの後何事も無かったかのようにもとの場所に座り込んだ。
 飛んでゆく矢の轟音を飲み込んだ蒼穹(そうきゅう:大空)もそれまでと同じように静まり返る。

「今のは何だったんですか?」

 少年の好奇心に男は答えた。

「おまじないみたいなもんだ。島に安全に渡るためのな」

 島の姿が大きく近づいてくるにつれ、岸に寄せる波の音が大きくなってきた。
 男は矢筒や弓を再び麻の袋にしまい込んだ。
 少年は船が近づいてくるといつも挨拶を交わす釣り人たちが居ないのが少し気になった。
 島に設けられた桟橋に小船を寄せるとロープで固定し、男の積荷を降ろすのを手伝った。

「これは駄賃だ」

 男は少年にそう言うと1,000gpと小さな弓矢を手渡した。

「こんなに…それに弓矢まで…」

「若い時間を無駄に過ごすな」

 男はそう言うと、誰かが用意したのか持ち主の見当たらない馬に荷物を括りつけてスカラブレイの街中へと消えていった。

 少年は港のすぐ近くにある治療院が騒がしい事に気づいた。
 多くの野次馬の中にいつも見かける釣り人達がいる。
 少年は近づくと彼らに声を掛けた。

「何かあったのかい?」

 釣り人は答えた。

「この町にミナックスのスパイが潜り込んでるって話しで首都ブリテインからロイヤルガードが送り込まれてたんだが…港を警護してた連中が次々と血を噴いて倒れたんさ! 俺達の目の前でな」

 別の釣り人が言う。

「矢だよ。あいつら、どこからか飛んできた矢でブスリ!とやられたんだ!えらい事だ。5人が5人とも矢で射抜かれてる!」

「…おい、お前、どうして弓なんか持ってるんだ?」

 少年は自分の手の中にある弓を見つめ、急いで手を離した。
 弓は乾いたカラン、という音をたてて治療院の床に転がった。

「ち、違う、これは…」

 その場にいた全ての人々の視線が少年に注がれる。
 後退る少年を誰かが羽交い絞めにする。

「おい、スパイだ!こいつが!とんでもない事を! ロード・ブリティッシュの名の下に、お前
を… … …!」




END

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