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魔法の言葉



「クリフー、疲れたよー。おんぶしてー。」
「歩いて帰りたいって言ったのはアリスさんでしょ。
ほら、もう少しでスカラブレイ対岸の桟橋ですから、しっかり歩いてください。」
 アリスはうちのギルドのわがままお姫様。
 いつも突拍子もないことを言ってはみんなを困らせる。

「みんなで狩りに行こう!ancient wyrm退治しよう!」
 今日もアリスの一声で始まった。

 ギルドの皆を集めるのは僕の役目。
「こら! クリフ! 私が危ない目にあうでしょ! もっと前に出てがんばって!」
 アリスの盾になるのも僕の役目……。
 他の奴らもいるのに、実はアリスのほうが僕の何倍も強いのに。
 結局僕だけ何度も倒されて、他のみんなが立派な称号を与えられたところで狩りは終了。
 いつも僕だけ損な役回り。

「よし!歩いてスカラブレイまで帰ってみようよ!」
 全くこの子は……。
 無謀というか後先考えてないというか……。
 あんだけ狩りをしてたんだからみんなくたくた。
 口々に用事があるとか言って早々と移動魔法で帰っていく。
 残ったのは……アリスと僕だけ。
 いや、僕は残りたかったわけじゃない。
 アリスのきつーい視線が刺さってて動けなかっただけなんだ。
 案の定アリスは根をあげ、さっきからうだうだ言ってる。
 全くもう……。

「ほら、見えてきましたよ。あの畑の奥が桟橋です。」
 アリスは急に元気になって走り出す。
 僕がやっと追いついた時には、ちょこんと船に乗って座ってる。
「アリスさん、何やってるんですか?」
「何って、スカラブレイまで行くんじゃない。ほら、クリフも早く乗らないと船出ちゃうよ。」
「あのですね、ここは桟橋で渡し舟もあるけど、その船は動かないんですよ。」
「じゃあどうやってスカラブレイまで行くの?ここから行くんでしょ?」
 スカラブレイの渡し舟にはちょっとした仕掛けがあって、渡るにはある言葉が必要だ。
 もちろん、それは桟橋の看板にしっかり書いてある。
 けど、アリスは気づかない。

 僕はいたずら心が沸いて来た。
「ここはですね。心のきれいな人じゃないと通れないように魔法がかけられているんです。」
 アリスはかなりびっくりした顔をしてる。
「私は心が真っ白にきれいだから大丈夫よね、ね?」
 不安そうにその場にいた釣り人に話しかける。
 僕はアリスに気づれないように釣り人のおじさんに目配せする。
「お、おじょうちゃんのことは知らないしなあ。俺にはわからねえや。」
 ナイス! おじさん!

「アリスさん、今日僕がancient wyrmに倒されそうになったとき、
独りで隠れてましたよね?心優しい人なら隠れたままでいるかな?」
「私が出ていって共倒れするより、独りでも生き残ってるほうがいいじゃない。
クリフが倒れた後、すぐに助けに行ったのは私よ。」
「そ、そうだけど倒れた後を万全とするより、
僕が倒れないように一緒にがんばるってのも方法だと思うのですが……。
そもそも、アリスさんは僕より強いでしょ?
僕なんかが守らなくたってやってけるじゃないですか。」
「だって、私はクリフに守ってもらいたいんだもん。」
 ……。
 今のは聴こえなかったことにしよう。

「それに!皆が疲れてるのわかってて歩いて帰ろうなんてひどいじゃないですか。
心が素敵な人はすぐに帰ってねぎらいの言葉をかけたりするんじゃないですか?」
「みんなが疲れてるのは知ってたから、歩いて帰りたいって言えば
クリフだけ残ってくれるかなと思って。」
 きっつい目で睨んで僕が帰らないようにしてたくせに。
「あの狩りでみんなには立派な称号がついたのに、僕だけついてないんですよ。
そういうことも気遣ってくれるのが心のきれいな人なんじゃないかなー。」
「大丈夫、私にとってはいつでもロード・クリフよ。」
 にっこり笑うアリスに、もう言葉が見つからない。
「ははは、こりゃにいちゃんの負けだな。」
 一部始終見てたおじさんにも笑われる始末。
「そうやって僕を煽てればいつでも思い通りになると思ったら大間違いですからね!」
「でも、いつも最後までついてきてくれるのはクリフだけよ。」
 気づいたらそういう役回りになってたんだからしょうがないじゃないですか!

 しょうがなくアリスに魔法の言葉を教える。
 アリスは初めての体験だったらしく、
 しばらく“Cross” “Cross”と行ったり来たり、無邪気にはしゃいでいた。

「さ、今日はここで休みましょう。」
 はしゃぎ疲れてうとうとしているアリスを、スカラブレイの宿屋に連れてくる。
「じゃ、私は別の部屋で休みますので、また明日。」
 このドアを閉めれば、やっとお守りから開放される。
 ドアを閉めかけたときに、アリスから声がかかる。
「ねえ、クリフ。」
 またわがまま発揮じゃありませんように。
「どうしました?アリスさん。」
「今日言ったこと嘘じゃないからね。じゃ、おやすみ!」
 バタンッ!
 ドアは閉められた。

 今日言った事?
 今日ってもしかして…

「今度、ムーングロウとパプアをつなぐ魔法の言葉でも教えてあげようかな。」
 わがまま姫にはやっぱり僕が必要みたいだ。


END

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