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誰も知らない ―No One Knows.―



 意思なのか、本能なのか。
 心の奥底から聴こえてくる声がそうさせるのだ。
 もっと、もっと、と。

 “最新情報!アントンが襲われたよ!皆気をつけて!”

 最後に首都を訪れたのは、いつの頃だったろう。
 あれも確か人探しだった。
 人がごった返してて、自分の声も聞き取れないくらいで、歩くのもままならない時代。
 あれから新たな土地が発見されて長い時が経っても、人を探すならまずここ……か。
 屋上のベンチに腰掛けながらタウンクライヤーの近くに立っている一人の青年に目を移す。

「丁度あの時、僕はおじいちゃんの家から帰るところだったんだ。家を出てしばらくすると急に風が止まり、月明かりのきれいな夜だったはずなのに漆黒の闇が襲ってきた。」
 −漆黒の闇−
「嫌な予感がして家の方向を見ると紅い光がとんでもない速さで飛んでいった。それからすぐに、叫び声が聴こえたんだ。」
 −叫び声−
「僕は見たんだ。紅い光がアントンおじいちゃんを襲ったんだよ!」
 −紅い光−
「あれは人じゃない。もっと……もっと得体の知れない“何か”の仕業なんだ!」

 青年がいくら叫んでも誰も聞きかないどころか、視線を向けようともしない。
 都会とは寂しいもんだな。
 無言で立ち去っていく者達の背中にタウンクライヤーの声が響く。

 “最新情報!アントンが襲われたよ!皆気をつけて!”

 こんな遠くから見てもだんだん気落ちしていく青年の表情がよくわかる。
 銀行前もほとんど人が少なくなり、青年の声も聞こえなくなってきた。
 そろそろ、俺の出番かな。

「君の話、もう少し詳しく聞かせてくれるかい。」
 屋上から飛び降り、青年の元へ向かう。
「ずっと君の言葉を聞いていたよ。あの事件の第一発見者だよね?」
「は、はい。」
 私の言葉がいきなりすぎたのか、青年は戸惑いを隠せないようだ。
「実はブリタニアの事件を扱う本を発行しててね。今回のような奇妙な事件は興味あるんだ。君の知ってる情報を教えてほしい。」
「本に……?」
「君はどうやら人じゃない何か違うものの存在を感じているようだが、なにか心当たりはあるのかい?」
「昔、おじいちゃんに聞いた話にとても似てるんです。闇に生きる漆黒狼の話に。」
「シッコクオオカミ?そんな動物は聞いたことないな。」
「おじいちゃんがまだ若かった頃、一度だけ見たと聞いています。UMAの中でもとても珍しい動物です。」
「UMAか……。未確認動物、ようするに伝説の動物ってことだね。」
「違います!伝説でも迷信でもない、UMAは……漆黒狼は本当にいるんです!」
「その漆黒狼が今回の事件に絡んでいると?」
「そうです、おじいちゃんは漆黒狼にやられたんだ!」
 これは、もっと詳しく聞いたほうが良さそうだな。
「ふうむ。ここから事件現場へはムーンゲートを使えばそう遠くないだろうし、歩きながらその漆黒狼の話してもらえるかな。事件現場も見てみたい。」
 相当誰にも相手にしてもらえなかったらしい。
 がっくり肩を落としていたのが嘘かと思うほど元気になり、都会がどんなに冷たいかなんて聞いてないことまで話し始める始末。
 本当に人というのは面倒くさい。
 行く前に近くの酒場でエールを買い、青年に飲ませる。
 これでさらに饒舌になるだろう。

「そろそろ本題のUMAの話に入ろう。おじいさんの話だね。」
「ああ、そうだった。赤い眼の漆黒狼の話だ。」
 ムーンゲートに近づいた頃にようやく話を聞きだすことができた。

****************

 俺はいつも独りだ。
 早くに両親を亡くし、ヒーラーギルドに引き取られた。
 ギルドのみんなはとても慈悲深く優しくしてくれたが、住む世界が違う。
 森の中で生きてるほうが俺には似合ってるんだ。

 ヒーラーとしての技術を会得してからは、旅人の役に立ちたい……という名目で森をふらつくようになった。
 もちろん迷える霊がいれば助けるが、ほとんど森の中を歩いてばかりいた。
 疲れたら寝転んで、目を閉じる。
 森の香りの中に、少しだけ混じる獣の香り。
 胸いっぱいに吸い込むと我慢できなくなるから少しずつ。
 どうしても衝動を抑えられないときは小鳥を獲る。
 羽を毟って必ず頭から。
 赤い液体の味をゆっくり楽しみながら、最後に口の中で細い足の折れる小気味良い音が聞こえて、やっと人の心に戻れるんだ。

 なにか……匂いが近づいてくる。
 動物ではない、この匂いは……。

「レックス!まーた仕事さぼってるのね。言いつけるわよ!」
 木の陰から急に何かが飛び出したと身構えたが、出てきたのは同じ村のサーシャだった。
「俺の仕事なんて少なきゃ少ないほうがいいだろ。迷える霊がいないなんて良い世の中じゃないか。」
 俺の横に一緒に寝転んでいたずらっ子の目でこちらを見ている。
「じゃあ、秘薬拾い手伝って。ね?お父さんが家の秘薬は売り物なんだから、修行するなら自分で集めろって言うんだもの。今度Heal Potion差し入れするから。ね?」
 村の魔法屋の一人娘で今は錬金術の勉強中。
 いつも森で秘薬を拾ってるから、俺達はよく森の中で会う。
「しょうがねえなあ。Heal Potion5本で手を打つぜ。」
 サーシャに視線を向けずに答えると、勢いよく俺に抱きついてくる。
「よかったー。今日中にSulphurous Ashを50個集めたいんだ。レックスありがとう!」
 子供の頃から一緒だったからか、サーシャはときどきこういうことをする。
 獣の血が呼び起こされる甘い良い香り。
 小鳥を喰ったくらいじゃ抑えきれない。
「わかったわかった。じゃあ、俺はあっちに拾いに行くよ。」
 サーシャを払いのけて、勝手に歩き出す。
 呆然とするサーシャの顔が見える気がして振り返ることもできない。
 でもこれ以上近づいていると何をするかわからないんだ。
 獣としても人としても……。

 地面ばかり眺めてひたすら歩いているうちにもう月が上がってしまった。
 40個は集めたからサーシャの機嫌も良くなるだろう。
 来た道を戻ろうかと思うと、なにか音がした。
 あれは……エティンの雄叫び声だ。
 そして風に乗せられてかすかに届く血の匂い。
 ……まさか!

 サーシャは戦う術がないんだ。
 まだ錬金術がようやくマスタークラスになったくらいで、Explosion Potionも失敗することがほとんどで。
 サーシャの匂いを探して、全速力で走る。
 獣の血が騒ぎ始めたのか昼間のようによく見える。
 こちらに背を向けたエティンを見つけ出すと、その前には……足と腕から血を流して倒れているサーシャの姿。
「よくもサーシャに怪我をさせてくれたもんだな。」
 声とともに、急に闇が濃くなり、眼が光るのを感じる。
 奥底から湧き上がってくる感情を表す紅い眼。
 爪は突き刺すために細く長く伸び、歯は噛み殺すために口から飛び出るほどに尖る。
 俺の動きについてこれないエティンはなすがまま。
 捕まえて肉を裂き、感情のままに喰いちぎる。

「レックス……?」
 気が付くと腕を抑えながらサーシャがこちらを見ていた。
 エティンの肉を口にしていた俺はすぐに冷静になれなかった。
 食べかけの肉を捨て、手でエティンの血を拭いながらサーシャに近づく。
 怖がって小刻みに震えている、その姿もかわいらしい。
 ゆっくりとサーシャの横に座ると、爪があたらないように何度も頭を撫でる。
 よかった、腕の傷はそれほど深くないようだ。
「レックスよね……?どうしたのその歯、手も。眼だって真っ赤。いつものレックスと全然違う。」
 唇に指をそっと押し当て、言葉を制すとサーシャの足のほうを見る。
 真っ赤に染まったスカートを少しずつ捲し上げる。
「いやっ、やめて。」
 サーシャが手を払いのけようとするが、怪我を負った体では自由に動くこともできない。
「大丈夫、傷を見るだけだから。俺に任せて。」
 もう一度サーシャの頭をゆっくりと撫でてから、またスカートに手をやる。
 太ももの辺りがざっくりと切れていた。
 傷が大きく血が止まる様子もない。
 血……。
 サーシャの血……。

 気付いた時には、太ももに舌を這わせていた。
 クラクラくるほどに甘い血。
 勿体無くてゆっくりゆっくり舐め、味わう。
 舐めるたびにピクンと動くサーシャがまたかわいい。
「レ、レックス。おかしいよ。ヒーラーは包帯を巻くんでしょ?」
 もうやめてとは言わないんだな。
「こっちのほうが治りが早いんだよ。」
 嘘じゃない。
 唾液が自然治癒力を活性化させる効果を持っているんだ。
 袖を裂いて、腕の傷も舐める。
 サーシャはもう何も言わないで、ただ舐めている俺をじっと見ている。
 血を全て舐めとってから包帯を巻く。
 これですぐに治る。
 爪と牙も元に戻って、“人らしい”俺に戻った。

「おぶってやるから、ほら。」
 サーシャの暖かさを背中越しに感じながら、村への道を歩く。
 俺もサーシャも無言のままで、話すきっかけを失っていた。
 冷静になってみればやりすぎだったとは思う。
 変化した姿を見せてしまったことが後悔に変わっていく。
 今まで誰にも言わずに隠してきたことなのに。
 存在してはいけない俺の姿を、気が昂っていたとはいえ誰かに見せてしまうことは、自分の命を危険にさらすことになる。
「私言わないよ。見たことなにも言わない。安心して。」
 不意に首に息がかかり、やっと沈めた気持ちが騒ぎ出しそうになる。
「そうか。」
 衝動を抑えきれなくなることが多くなってきた。
 少しずつ獣の血が濃くなっているのを感じる。
 爪も牙も少しずつ長くなって、体毛も気持ち濃くなってきた気がする。
 俺はどうなっていくんだろう。

 村の入り口に着いたとき、いつもとは違う騒々しさを感じた。
 いつもの夜ならひっそり静まり返ってるはずなのに、男達がトーチを持って走り回っている。
 何が起きてるんだ?
 近くを通りかかった武器屋の店主を捕まえてどうしたのかを尋ねる。
「強盗だ。酒場が襲われた!」
「犯人はどこに?」
「それがわからねえんだ。まだ遠くに逃げちゃいないはずだ。危険だから早く家に帰っとけ。」
 店主はそういうと斧を振り回しながら走って闇に消えていった。
「レックス……。」
「早く家に帰ろう。」
 襲われても返り討ちにする自信はある。
 ただ、今の不安定な気持ちじゃ“獣”を隠して戦う自信がない。
「足、もう治ってるはずだ。包帯を取ってみて。」
 サーシャをおろし包帯を取らせる。
 傷は跡形もなく消え、真っ白な肌の太ももがあらわになる。
「魔法屋まで走るぞ。」

 魔法屋は村の一番はずれ。
 店の明かりを頼りにサーシャの手をとって走るが、人のままじゃうまく走れない。
 躓きそうになりながら、サーシャを引っ張ってやっと店に着き、ドアの前で息を整える。
 サーシャを送り届けたら、俺は一度戻って犯人を見つけて……。

「来るなっ!」
 ドアを開けた途端、親父さんの声が聞こえたかと思うと俺は肩に鋭い痛みを覚えた。
「レックス!」
 よろけた俺を支えてくれたサーシャの手に赤い血。
 血……。
 俺の血……。
 ドアの影には弓を手にした男が一人。
 そして、親父さんの後ろからもう一人。
 強盗め、よりによってここかよ……。
「ほら、じじいさっさと金をよこせ。」
 強盗は親父さんの後ろから剣で脅して、ありったけの金を出させている。
 魔法の先生でも、あんな至近距離にいられちゃ詠唱もできない。
「この女、連れて帰ろうぜ。」
 ゆっくりと弓の男が近づいてくるが、サーシャは泣きじゃくりながら俺に寄り添っていて気付かない。
「サ、サーシャ。逃げろ。」
 俺の傷なんてすぐ治るんだから、早く逃げろ。
 こんな男らに捕まったら、何されるかわかったもんじゃない。
 心の傷は治してやれないぞ。
 言いたいのに、うまく言えない。

「ほら、おじょうちゃん俺と来な。」
 男がサーシャの腕を掴む。
「やめてっ。離して!」
 嫌がるサーシャを無理やり店の裏のほうに連れて行くのを見たとき、何かがはじけた。
「やめろ!」
 体が少しずつ熱くなってくる。
 肩の傷が眼に見える速さで治っていく。
 あたりの闇が少しずつ濃くなっていき、体が少しずつ変化していく。
 爪、牙、そして、体中が体毛に覆われていく。
 真っ黒な毛に覆われた体はどう見ても……。
「グルルゥ…」
 もう人の言葉を話す事も出来ない。

「な、なんなんだ。人が狼に……。」
 眼を閉じて暗闇に隠れながら、匂いを頼りに男に近づく。
「ど、どこだ!どこにいった!」
 弓を身構えたって、打てるわけがない。
 眼を開けて男をじっと睨みつけてやる。
「赤い眼……ば、化け物!死ね!」
 打ってくる矢があたっても、もうかすり傷1つつかない。
 そう、俺は化け物なんだよ。

 奴の叫び声が途中で聴こえなくなったのは、飛び掛って首元を噛み千切ったから。
 こんな男、生きてる価値もない。
 霊になってずっと彷徨ってろ。
「なんだ!なにがあったんだ!」
 店の中ではもう一人の男が親父さんの首に剣を当てたまま、叫んでいる。
「グルルゥ、グウゥ……」
 俺に気付くと、親父さんを放り出しこっちに剣を向けてくる。
 そんな剣じゃ無駄だよ。
 親父さんが隙を突いて外に逃げ出したと同時に男に噛み付く。
 筋肉だけのまずい腕。
 一気に殺してしまおうと首に噛み付く瞬間。
 An Ex Por
 体の自由が奪われた。

「やめろ!」
 後ろから村の男達が一斉に店に入ってきて、男を取り押さえる。
 そして……俺も。
 縄で縛り上げられて、外に連れ出される。
 サーシャが親父さんと一緒にこっちを見ている。
 よかった、怪我はしてないようだな。
 こっちに駆け寄ろうとしても、親父さんがサーシャの手を離さない。
 そうだよな、普通の親ならこんな化け物に近づかせないよな。

 そのままガードに引き渡され、村の中央に作られた檻に入れられた。
 これじゃ、見世物だな。
 あの男はヒーラー小屋に連れてかれたようだ。
 あんな奴でも治さなきゃいけないギルドの仲間達のほうがかわいそうでならない。
 冷静なつもりでも、変化が解けないということはまだ血が昂ってるのだろうか。
 それとも、もうこの姿のままか。

 陽が上り、檻の前に人が集まりだした。
 昨日の出来事を口々に噂し、俺を好奇の目で見てくる。
 ただ、俺がレックスだということは知らないようだ。
 サーシャも親父さんも言わないでくれてるんだな。
 檻の周りの人垣にサーシャもいたが、すぐに立ち去ってしまった。
 こんな姿の俺を見ようともしない。
 もう、何もかもどうでもよくなったな。
 助けたかった、ただそれだけだったのに。

 皆が寝静まった真夜中。
 かすかな気配に目が覚める。
 丸めてた体を起こし、あたりを見回す。
「ごめんね…。」
 暗闇から声が聞こえる。
「レックス、ごめんね。こんなことになるなんて、私……。」
 サーシャは悪くない。
 俺が勝手に助けたかった、それだけなんだ。
 サーシャが無事ならそれでいい。
 ふいに体の力が抜けてくる。
 少しずつ爪や牙が短くなり、変化が解けそうになる。
「サーシャ、服を持ってきてくれないか。変化が解けそうだ。」
 なんとか人の声を絞り出す。

 持ってきてもらったローブを檻の隙間から押し込んでもらい、身を包むと同時に人に戻った。
 初めての完全な変化のせいで体中が痛い。
「サーシャは悪くない。俺はこんな化け物なんだ。ごまかしごまかし生きてきたが、ばれるのも時間の問題だったんだよ。」
「レックス……。」
 檻に駆け寄ったサーシャの手を取り、見つめる。
「サーシャが無事ならそれでいいんだ。俺はもうどうなってもいい。」
 サーシャの目が潤んできているのは気のせいじゃないはず。
 檻がなけりゃ抱きしめてやるのに。
「みんなに話したのに。ガードにも狼は悪くないって、私たちを助けてくれただけだって。だから檻から出してってお願いしたのに……。こんな凶暴な動物は生かしておけないって……。」
 そう言うと耐え切れずに大粒の涙が溢れてきた。
「あの状況を見れば誰でもそう思うだろうな。」
「逃げましょう、一緒に。こんな村、いる必要ないわ。」
「親父さんはどうするんだ。それに俺といたら危険な目に遭うだろ、それがわかってて一緒には行けないよ。」
「お父さんはわかってくれたわ。どこにでも行きなさいって。だからお願い、一緒にいたいの。レックス……。」
 涙を流しながらもまっすぐに俺を見る。
 どんな姿であっても、俺でいいのか。
「でも、逃げるったってどうやって。檻の鍵はガードが持ってるし、こんな頑丈な檻壊すことは無理だぞ。」
「……私に任せて。私が鍵を取ってくる。」

****************

「次の日レックスが入っていた檻はもぬけの殻。毒殺されたガードが見つかったと聞きました。」
 途中で飯を食いながら来たので、現場に着いたのはもう夜更け。
「そしてサーシャも消えた。レックスはもともと放浪癖があったからサーシャが消えたことばかりが話題になって、狼を逃がしたのはサーシャだって村では噂になったって。」
「そのあとの2人は?」
「誰も知らないらしい。村人たちは魔法屋の店主を問い詰めたけど、知らないの一点張り。そして店主もすぐに村から出て行って行方がわからないんだって。」
「親父さんは……もう死んでるよ。」
「そ、そうなんですか?なんだ、あなたも色々知ってるんですね。もしかしてサーシャの行方も知ってたりするのかな。」
 サーシャ……。

「ほら、ここが紅い光を見た場所だ。あそこにあるのがアントンおじいちゃんの家。」
 ベスパーから少し外れた平原の一軒家。
 こんな人のいないところで目撃されるとはな。
「実は、おじいちゃんはあの時の強盗の生き残りだったんです。あ、安心してください。あの事件の後は一度たりとも悪いことはしてないと言ってました。僕にとっては優しい良いおじいさんでした。」
 自分に優しければいいのかね。
 みんな自分だけが良ければいいんだろうな。

「他にもこの話を誰かにした?」
 少しずつ闇が深くなってくる。
「いや、聞いてくれたのはあなたが初めてですよ。おじいちゃんはどうせ誰も信じてくれないだろうって僕だけに教えてくれた話なんだ。」
「じゃあ、君がいなくなれば漆黒狼がレックスっていう男だと知ってるものはいなくなると。」
 体が熱くなって闇に溶けていくのを感じる。
「僕は叫びますよ!これはブリタニア全土に知らせなきゃいけないんだ。危険な生物がはびこっているんだ!」
「そうか、それは残念だ。」

「霧が出てきたのかな?なんか前がよく見えないですね。えーとお名前なんでしたっけ?」
 名前なんて聞いても、君はすぐにいなくなるのに。
「俺か?俺は……レックスだ。」
 一瞬気付かなかった青年がだんだんと恐怖の色に染まる。
 俺のことを知ってる者には生きてられちゃ困るんだ。
 ばいばい、青年君。
 漆黒の闇の中で紅い光を放つ。

 “最新情報!また犠牲者が出たよ!皆気をつけて!”

 そして……俺を知る者はもう誰もいない。

 

The End

 

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