ザザアァ・・・
さざなみの音が聞こえる。
やっぱり海はいい。それも、少し時期はずれの、誰も居ない、静かな海が。
人目を気にせず、眺めていられるから。
もうすぐ海開きの日が来て、人でにぎわってしまうのだろう。
懐かしいハープの音が聞こえる。ねえ、聞こえない?問いかける相手もいないのに。
「ふるさとの歌だわ・・・」
どんなに遠くても、どんなに手が届かなくても、一番暖かい、やさしい思い出・・・
満月の夜、満潮のころには、珊瑚のたまごが生まれるのよね。
「母なる海、か・・・」
私も、この海にとければ、また生まれることができるかしら?
血が滴り落ちる。出血ではない。身体を構成している、これがすべてだから。
「若い女の血が欲しかったのよ・・・!それを浴びれば美しくなれると思った!出来るだけ多く血を得られるように、弱らせず、より太い動脈を切らせて、搾り取ったわ。バスタブを満たして、幾度となく身体を浸した・・・」
罪が暴かれて、死ぬまでの幽閉を義務づけられても、罰の終わりは来なかった。
あるとき流れ出した血が、体の体積を超えて溢れ、自分の体そのものになったのは、いつだっただろう。
「どうせなら、断頭台に送られた方が良かったかもしれないわね・・・」
食らった女の命の分、私に苦しめというのか。
私はブラッドエレメンタル、血の精霊。命の鼓動と結びついて、その営みを象徴する、そんな本来のブラッドエレメンタルではない。過去の罪に体ごと縛られた、よどんだ体液の塊。今は、それでしかない。
「人が来る季節になって、誰かに悟られないほうがいいわ。」
さらさらとした砂が、体組織を奪っていく。急がなければ。
海に身体を浸す。もう少し奥へ、深いところへ。体が全て溶けるまで。
ハープの音色が聞こえる。
ふるさとの歌。この懐かしさは、私の身体を作っている、死んだ女達の記憶かしら・・・?
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