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美味い店



 俺は無類の調味料好きだ。
 世界中を旅して探し歩いたが、とうとう最後には自分で研究して作り始め、旅先の密林に自分で店を開いてしまった。
 世界中から集めた調味料と自己流で開発した調味料で味付けした料理を出す。

 料理にはとんと疎い俺が調味料頼みで開いた店だから、店の名前は単純だ。
 看板にはこう書いた。

「うまいもまずいもあじしだい」

 店先に掲げて眺めてみると、どうも長すぎる気がする。
 知性が足りないのかもしれない。
 ちょっと考えてこう変えた。

「美味いも不味いも味次第」

 知性が少しだけ備わった気がするが、センスに欠ける気がする。
 おしゃれなカフェ風にするならこっちの方がいいかもしれない。

「Umai mo Mazui mo Ajisidai」

 格段におしゃれになった気がする。しかし、さらに長くなってしまった。
 店として考えればぱっとみて読める名前が最適だ。
 相当考えた挙句、単略化することに成功した。
 看板には大きく「UMA」と3文字だけ大きく書いた。
 おしゃれだし店の主張も入っているし大きな文字で目立っている。完璧だ。

 だがここはどこともしれない密林。
 俺のようなもの好きぐらいしか来ないんじゃないだろうか。
 まぁ客が来ない間は大好きな調味料の調合に打ち込めるというものだ。
 それからしばらく案の定客は来なかった。

 だが、ある日冒険者風の男がふらりと入ってきた。
 自慢の調味料を食べてもらいたくてうずうずしていた俺は張り切って声をかけた。
「いらっしゃいませ!」
 男は俺をしげしげと見て返すと言った。
「看板を見たんだが・・・」
 俺は自慢げに応えた。
「ええ。俺が名前をつけたんで。美味いも不味いも味次第、略してUMAです」
 男は俺をじっと見ている。
「俺のとっておきの調味料で味付けした料理なんて食べていきません? 自信作があるんです」
 俺は早く自慢の調味料を食べて欲しくてがんばった。
 客商売なんて初めてだからどうしていいのかさっぱりだが、なんとしても食べていってもらいたい。
「世界中から集めた珍しい香辛料もありますよ。」
 男は黙ったままじーっと俺を見ている。
「ええと・・・。こんなのはどうです? 慈悲神殿の周辺からしか取れない珍しいさそりの毒から作った胡椒。こっちは沼地のビーストっていう生き物の粘液を乾燥させて粉に挽いた香辛料。ああ、これは珍しくもないなぁ。古代竜の鱗です。意外としょっぱいんですよこれ」
 男がゆっくりうなずいた。

「それは君が全部一人で集めたのかね?」
「ええ、そうですよ」
 俺は得意げに言った。
「古代竜の鱗も?」
「ええ、もちろん」
「危険な場所ではなかったかね?」
「そんなのへっちゃらですよ。近くに影竜っていうのもいたんですが、あれは食べてみたがどこも使えそうな箇所がなかった。まるでぜりーみたいな味気ない皮でしたねぇ」
「ふむふむ・・・」

 俺は段々苛々してきた。
 ここはおしゃべりするところではなく、俺の調味料を食べてもらうところなのだ。
 すると、男は俺の苛々に気づいたのか、慌てて席についた。
「失礼、さっそく君の自信作を食べてみよう」
 俺ははりきった。
 生まれて初めて人様に食べてもらうのだ。
 店中の材料を混ぜ合わせて渾身の一食をこしらえた。
 盛り付けも香辛料を立てたり振ったりおしゃれに飾り立てた。
 客の前にどんと置くと、その迫力と強い独特の香りに客も感動の表情だ。
 これだけの料理が出せるのは世界広しといえどもここだけだろう。

 男は黙って迫力の料理を眺めていたが、いきなり手を叩き出した。
「素晴らしい!こんな素晴らしい料理みたこともない!!!」
 まず見栄えと香りは合格といったところだろうか。
 俺はほっとして言った。
「そうでしょう。そうでしょう。味もいいですよ。どうぞどうぞ」
 男は大きくうなずいた。
「さっそく頂きましょう!しかしああ、こちらでは飲み物がないようだ」
 言われて俺は慌てた。確かに飲食店に水も出さないとは間抜けだった。
「ああ、大丈夫。ここに一本のエールをもってます。酒にももちろん合うでしょうな? この素晴らしい料理なら」
 男の言葉に俺は胸を張った。
「もちろん。どんな飲み物にだって合いますよ!」
 男はうなずいて大きく一さじ料理をすくうと口にぱくっと入れた。
 それから口を大きく動かし、さらにエールを傾けて一気に飲んだ。
「う、う、う、う、美味い!!!!!」
 男の言葉に俺は今までの苦労が報われた気がして思わず涙ぐんだ。
 慌てて背中を向けて涙を拭く。
 男も感動の味だったらしくしばらく無言が続いた。

 一口を長く味わった男は言った。
「実に素晴らしい料理だったので是非この残りを国もとに持ち帰りたいと思うのだが、これだけ素晴らしい味付けなのだから数日ぐらいはもつのだろうね」
 俺は自信たっぷりに答えた。
「もちろんです。うちの店名はまさにそういう意味なのですよ。腐った食材も優れた味付けで美味しく食べられるのです」
 男は感心したようにうなずいたが、男が開いたリュックには全部入りそうになかった。
「ちょっとまってください。ドラゴンの胃袋があるのでこれに入れましょう」
「おお、ありがとう。助かるよ。ところで、こんな辺境じゃ商売は難しいだろう。せっかく素晴らしい店なのにもったいない。もっと人通りの多いところに店を出してはどうだろう? そうだなぁ。たとえばムーンゲートの近くなどはどうだろう。ちょうどいい土地を知っているのだけど君さえよければ是非来てほしい」
 俺はものすごい幸運に感謝した。
「それはうれしいです。俺もこの料理をたくさんの人に食べてもらいたいと思っていたんです」
「ではさっそく手配しよう」

 約束通り、数日後に男はあらわれた。
 そしてなんと願ってた通りの土地に連れていってくれたのだ。
 ムーンゲートも近い上に人通りも多い。
 さらに俺が店を置いた場所は住宅街の一角で、住人たちが毎日毎日食事を注文してくるのだ。
 連日大繁盛だが、俺は忙しくて調味料を取りにいく時間が無くなってしまった。
 しかし、親切な最初の客が仲間と共に食材を必要な分を必要なだけ注文通りに持ってくる。
 気ままな旅暮らしとは縁を切ることになったが、大好物の香辛料に囲まれて実に充実した毎日だ。

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 UMA捜索本部前インタビュー会見
「最後の目撃情報によるUMA(ユーマ)を発見されたとか。」
「ええ、世界中を移動する生物だったようで、探すのに苦労しました。」
「なんでもトリンシック南部の密林にいたとか。」
「ええ、驚きましたよ。UMAという看板の小屋に入ったらまさに噂どおりのUMAが居たんですから」
「収容に成功したということですがお手柄ですね。」
「ええ、ニューヘイブンのUMA収容施設に移送したのですが、移送にはさほど苦労はしなかったのですよ。ドラゴンを丸かじりしいていたなどという目撃情報もあったので用心はしましたが、それよりなにより・・・あの料理というかものすごい腐臭の塊を食べさせられたときはこっそり吐き出すのに苦労しましたねぇ・・・」

 

The End

 

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