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偶然の出来事



それは全く偶然の出来事だった。
俺はムーングロウのとある店でベンダーを見ながら俺に絡んできたキーキーうるさいモンバットを一匹、一撃のもとに地面に沈めてしまった。
それは止まった虫を払うような無意識の行動だった。
当然そのモンバットから金銭的なものを奪おうとも思わなかったから死体も漁らなかった。
その夜、その来客がなければ俺はこんなちっぽけなことなど思い出しもしなかっただろう。
深夜遅く、突如訪ねてきたその客は扉を開けた俺の前で深々とお辞儀をした。
「夜分遅くに失礼致します。私、あなた様が殺したモンバットの家内でございます。」
寝ぼけていたせいか俺は一瞬俺が殺してきた膨大な量のモンバットの情報を慌てて引き出そうとしてしまった。
「いつ殺したモンバットですって?」
口に出して言ってから俺は問題がそこではないことに気がついた。
「家内って……。」
そう、そこだ。
俺の前に立つ来客は確かに女性で、茶色いボンネットとドレス姿で、お下げの髪が肩で揺れている。
旦那と言うよりは家内で正解だろうが、俺は寝ぼけた頭でどこを突っ込むべきか考えた。
「とりあえず中に入っていいでしょうか人目につきますし……」
女性の言葉に俺は慌てて塞いでいた入口から退いた。
「これは失礼、どうぞ。どうぞ」
女性を立たせっぱなしはいけないと思い中に招き入れ、とりあえず考えることは後回しにすることにした。
温かいミルクを入れて彼女の前に置くと、彼女は再び深々と頭を下げた。
「本日殺したモンバットでございます」
言われて咄嗟にムーングロウの店が浮かんだのは奇跡的なことだった。
なぜなら今日の俺はムーングロウしか行ってないし、気分がのらずあまり活動らしいこともしていないからだ。
しかし、そのモンバットが彼女の旦那だったかどうか身体的な特徴を言われても俺には全く判断つかないし、無数にいたムーングロウのモンバットを何匹殺したかも当然覚えていなかった。
「ああ、あれはあなたの旦那でしたが、これは失礼を……」
俺は全く腑に落ちない気持でとりあえず言葉を返した。
その瞬間、目の前の彼女はうつむいて激しくすすり泣き始めた。
「あ、いや、これは申し訳ない……」
俺は俺の言葉に配慮がなかったことに気がついた。
彼女は旦那を殺された未亡人なのだ。もっと労わる言葉がなかったものか。そもそも、その泣くほど大事な旦那を殺した俺にそんな言葉が似つかわしいかどうか……。
いや問題はそこじゃないかもしれないが……。
「いえ、いいんです……」
混乱する俺に彼女はすすり泣きながらもはっきりとした声でそう言った。
「あの人は殺されて当然の人でした……」
人というところに違和感を覚えるが、とりあえず彼女は今人間の姿をしているのだから、あのモンバットも人型のときがあったのかもしれない。
私は黙って申し訳なさそうに頭を垂れた。
「出会った頃は温厚な人に思えたんです。とても優しくて大切にしてくれました。結婚式も私の希望通りイルシェナーの緑深い大自然の中でしてくれて、羽枕も羽がよれよれになるぐらいしてくれたし、私のために歌まで作ってくれました……」
彼女は言葉を止め、私を上目づかいに見た。
「聞きます?」
「い、いえ今日は遠慮します……」
俺はキーキー夜中に歌うモンバットを想像して慌てて断った。
「あの人は……結婚してからかわってしまった……」
彼女は再びすすり泣きながら話始めた。
「ある日ちょっと可愛い女の人についていったかと思うと、帰ってきたら私に暴力を振るうようになって……いいえ私だけじゃありません。誰彼かまわず暴力を……ぅぅ」
一度テイムされたモンスターがリリースされて他のモンスターを攻撃するようになる習性とは違うんだろうか……。
俺はいろいろ突っ込みたい気持ちを抑えて黙って聞いていた。
「あの日も私が焼いた目玉焼きがまずいと言って出て行ったんです……。
いつもと変わらない味だと思ったんですが、愛人の方がいいって……」
モンバットが目玉焼きを焼く姿を想像して吹き出しそうになり、俺は慌てて口を押さえて俯いた。
「でも私あの人のことを深く愛していたので、どうしても気になって探したんです。そしたらあの民家の前で……」
彼女はひときわ激しくすすり泣き、俺はものすごい罪悪感に襲われた。
「申し訳ないです……はい……」
モンバットを殺してこんなに後悔するとは思ってもいなかった。
「いえ、いいんです。あの人がきっと先に手を出したんだと思います」
それは全くその通りだったから俺は黙っていた。
「でも私、愛人と一緒にいるところを見つけてやろうって思っていたんです、でもあの人は一人で、そして地面に消えていくところでした。
私は慌ててあの人のまだ温かい体に触れて形見になるものを探しました。
そしたら出てきたんです……。
あの朝私が焼いた目玉焼きが!」
彼女はそう言って私の前に冷えていかにもまずそうになった目玉焼きを一つ出した。
その目玉焼きは左右に一口ずつ齧った跡があった。
「こっち側は主人がかじった跡です。そしてこっちが私の齧った跡……。あの人……まずいって言いながら大事に持っていたんです……。この味、私の味なんです……。私が生んだ卵の味なんですうぅぅぅぅぅぅぅっ」
モンバットって卵生だったのかぁぁぁぁぁぁっ!!
驚くところはそこじゃないと思ったが俺は心の中で絶叫するほど驚いた。
「たくさん産んだので、残りは大事に育てて旦那のためにも立派なモンバットにしようと思います」
彼女は赤く腫れた目をあげて俺をじっと見た。
「あの人の本当の気持ちを知ることが出来たのはあなた様のおかげです。この目玉焼き……よろしければ召し上がって下さい」
そんな捨てにくいものを置いていくなよっ!俺は言いたかったがぐっと堪えた。
「ご迷惑おかけしましたが、いろいろありがとうございました」
彼女はまた深々と頭を下げた。
「い、いえこちらこそ……」
何と返していいかわからず俺は口のなかで言葉を濁して頭を下げた。
「では子供たちが待っていますので……」
立ち上がった彼女を俺は玄関先まで送り、一応家まで送りましょうかと言葉を添えた。
彼女は丁寧に断ると、やはり深々と頭を下げ、夜の闇に消えていった。
まるで夢のような出来事だったが、冷えてまずそうな目玉焼きがテーブルの上に残っているのをみるとなんとも否定しがたい出来事ではあったようだ。
俺は仕方なくテーブルの上でその目玉焼きをロックダウンした。
それ以来、俺にはモンバットが一番ブリタニアで気になる存在となり、喧嘩を売られるたびに逃げ回るようになった。
なぜならモンバットのキーキー鳴く声が実は「俺のパパをよくも殺したなー」という意味だとしたらものすごい気が重くなるじゃないか……。
今やモンバットは俺の中でブリタニア最強のモンスターだ……。

***********

定例モンバット会議

「調査報告を申し上げます。
例の男のモンバット殺傷数は訪問前と比較すると9割減となりました。」
会場はキーキーとした熱気に包まれた。
「問題点としましては、この手の話が出回りすぎると信憑性が乏しくなる可能性が挙げられます。
人間達にばれないように様々なパターンの話を作成すべきだと考えます。」
「なるほど」
「この手の話を一般のモンバット達からも定期的に募集し、かつ実行する精鋭部隊を育成すべきだと考えます」
キーキー発言したモンバットに賛同の雄叫びが上がる。
その時一匹のモンバットが飛び込んできた。
「大変です!作戦情報が漏洩しました!個人情報も流出です!」
混乱がキーキーに拍車をかける。
「何族に漏れたんだ!キー」

**********

その頃・・・

『トントン』

俺は扉を叩く音で目が覚めた。

こんな夜中に誰だよ……。

俺は寝ぼけた頭で考えながら戸口を開けた。

「夜分遅くに失礼致します……。私、あなた様が殺した黒閣下の家内でございますが……」

「……」

 

The End

 

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