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War in War -女戦士-



 ブリタニアの戦場を我が物顔で駆け抜ける"ヴァルエスタ傭兵団"。その本拠地、団長室にてヴァルエスタは王座のような椅子にどっかりと座り物思いに耽っていた。
 そこへ、ドカドカッと騒々しい物音と共に団長室の扉を開ける音がした。

「どういう事ですか、ヴァルエスタ団長ッ!! うちに女を入れるなんて──いや、戦場に女などッ……!! 」

 顔にいくつもの戦傷がある黒い短髪の部下は、息も絶え絶えに怒鳴り込んできた。
 ヴァルエスタは、そんな部下の顔を一度だけちらりと見て

「うるせぇな。ロナセリアはその腕を見込んで入団を許可したんだ、文句があるならテメェが抜けろ。」

 怒鳴り込んできた部下はぐっと押し黙り、そして意を決したかのような顔つきでヴァルエスタを睨みつけると、そのまま部屋を出て行く。
 ──ま、反発が出る事ぐらい予想はしていたが、な。

 この庸兵団も荒れるなと適当に考えながら、ヴァルエスタは剣を手に部屋を出て行く。断末魔と剣戟が鳴り響く戦場へと赴く為に。

「血の精霊の加護がありますように。」

 心底愉しそうな笑みを浮かべて──。

 * * * * *

 それから三年後、金色の髪をした女戦士はヴァルエスタ庸兵団の本拠地にある会議室に召集されていた。
 ブラッドエレメンタルのようなどす黒い血の色をしたプレートメイルは、戦場で付着してしまった敵兵の返り血だ。

「ロナセリア部隊長、ただいま参りました。」

 部屋に入ると、団長のヴァルエスタを始めに副団長のキアニス、そして幹部と呼ばれる師団長達が勢ぞろいしていた。

「おう。ロナセリア、待っていたぞ。まぁ、そこへ座ってくれ。」

 「はっ」、とやや緊張した面持ちで敬礼し近くにあった椅子に腰を掛ける。
 正直落ち着かないな、とロナセリアは思う。団長のヴァルエスタや副団長のキアニスは自分を受け入れてくれているようだが、ほとんどの幹部達は女の自分が入団した事もそうだが部隊長に収まっている事に憤りを感じているようだった。とは言え、自分から部隊長の座を狙っていたわけではなく、単に戦場での功績をヴァルエスタが評価しただけなのだが。

「現在、我ら庸兵団はサーペンツ・ホールドやデシート等の紛争にて傭兵活動を行っているが、今回、権力争いをしているある派閥から傭兵の依頼が来た。その指揮をロナセリア・フェリエス、お前に任せたいと考えている。」

 いつになく真剣な表情でヴァルエスタは言う。

「私は反対です。女の指揮官など……我ら庸兵団の恥を晒して自ら笑い者になる御つもりか。こんな小娘がヴァルエスタ庸兵団の中隊長を名乗るのもおこがましいのに!! 」

 幹部の中でも特にロナセリアを嫌っている(であろう)ダロヴィスが一蹴し、ほとんどの幹部がそれに同意する。
 その言葉に、先程まで緊張の糸で縛られていたロナセリアはピキリと怒りの炎を燃やし始める。
 それを知ってか、知らずかキアニスが補足する。

「なら、お前等、ロナセリアと戦って勝てるというのか?」

 それは、ほとんどの幹部達にとって寝耳に水といった発言だった。一番驚いたのはダロヴィスだろう。呆然とした表情が次第に赤みを帯びていく。

「こんな小娘に千五百の兵を預かる我ら師団長が負けると本気で仰っていらっしゃるのか!? 」
「正直、俺はロナセリアに一個部隊ではなく、一個師団を預けるに相応しい人材だと評価している。まぁ、多少戦術が大味である事は認めるがな。」

 それを聞かされたダロヴィスは、しばらく固まった後

「……そこまで仰られるならば、今回の件に関しての異議はありません。ですが、ヴァルエスタ団長。判っておいでだとは思いますが、ロナセリアが今回の依頼を達成できなければあなたには相応の責任を取って頂きますよ。」

 ほとんどの幹部の目が一斉にヴァルエスタへと向けられる。
 権力に胡坐を掻いた野郎はこれだから性質が悪ぃな、とヴァルエスタは心底呆れ返って「判った」と短く返事をした。

 この戦──負けられない。

 会議室から退室し、戦場へ赴く為の身支度を整える為に自室へと向かうロナセリアは、強く心に誓った。

 * * * * *

 ブリタニア全土を統べていたロード・ブリティッシュ。彼がミナクスの猛攻に耐え兼ねて、フェルッカに見切りをつけトランメルへと流れてから、フェルッカは混沌を極めていた。
 復讐心からロード・ブリティッシュを殺そうと目論んだミナクスとその一派。ロード・ブリティッシュを殺せなかったミナクスは、その対象をトランメルへ逃げ出さなかったブリテイン市民へと向けた。
 そして、フェルッカ・ブリタニア城の崩玉を知ったメイジ評議会はその野望を剥き出しにした。混乱に乗じてブリタニア城を乗っ取り、フェルッカを支配しようとしたのである。

 今回の雇い主は、ミナクス一派そしてメイジ評議会からブリテインを護ろうと集まった者達で結成されたトゥルー・ブリタニアンズだ。

 (まぁ、報酬さえ払って貰えればどんなクソ野郎の飼い犬にだってなるけどね。)

 ロナセリアは内心で少し苦笑しながら、トゥルー・ブリタニアンズの本陣がある首都ブリテインへと足を踏み入れる。

「お前等、何者だ。」

 ハルバードを持ち、全身プレートメイルを纏った門番らしき男が尋ねてくる。

「ヴァルエスタ庸兵団から来たロナセリア部隊だ。雇用主のオウラン卿への接見を願いたい。」

 女の部隊長など使えるのか?と門番の男は数秒間たっぷりと猜疑の目をロナセリアへと向け、やがて「少し待て。」といってブリテイン城へと消えていった。

 またか、と内心項垂れるロナセリアだが、部下達の前では寸分もそういった気配を見せない。舐められれば殺される。自分が居る世界はそういう所だ。

 やがて、門番らしき男が戻ってきた。

「ヴァルエスタ庸兵団のロナセリア部隊とか言ったか、帰ってヴァルエスタ殿に伝えろ。こんな女を遣すなど、我らトゥルー・ブリタニアンズを侮辱しているのか?と。我々が求めているのは、戦況を打破できる戦力だ。子供を産むしか能のない女はすっこんでいろ。」
「く、くくっ、あははははははは!! 」

 ロナセリアは無邪気な子供のように笑う。そして腰に下げていた剣を素早く抜くと、プレートメイルの間を縫うようにして門番らしき男の喉下へ突き出し、高慢な笑みを浮かべる。

「屈強なるトゥルー・ブリタニアンズ様は本当にお優しいわねぇ。女の私が剣を喉下へ突きつけるのを待って下さるのだから。」
 言いながら、剣の切っ先に力を込める。

「お、おおお前……こっこんな事をして、た、ただです……すす済むと思っているのか。」

 ロナセリアは、突きつけた剣をそのままに門番らしき男の耳元まで近づくと

「お前こそ今来た道を戻って伝えなさい。子供を産むしか能が無い女は戦況を打破出来ます、ってね。」

 そう囁くと、突きつけていた剣を鞘に収めてひらひらと手を振る。
 門番らしき男は、奥歯を噛み締めながら再びブリテイン城内へと消えていった。

「使えない者ほど戦場は男のモノだと主張し、女を排斥しようとしますな。」

 ロナセリアが信を置く部下の一人、ベリストフは表情を崩さないまま言う。

「まったくだな、もう怒りすら覚えんよ。」

 そして思い出したようにふっと笑って、それにな、とロナセリアは続ける。

「私のように人殺ししか能のない者にとって、子供を産める女性は寧ろ羨ましく思うわ。」

 戻ってきた門番らしき男に促されるまま、ロナセリアは部隊を引き連れてブリテイン場内へと入っていく。

 * * * * *

 雇用主からの依頼は実に簡素なものだった。普通の頭で考えれば、嫌がらせとしか思えない内容の。

 "メイジ評議会本拠地へ向かい、それを殲滅せよ"

 その言葉を聞いたロナセリアは、そのまま身を翻しマジンシアにあるメイジ評議会本拠地へその日のうちに向かった。

「ベリストフ小隊は後方を、トランメリー小隊は魔法による陽動を。後の小隊は私に続け。」

 ロナセリアは、すっと目を閉じて部下達に祝福を送る。

「皆に血の精霊の加護があらん事を。」
『血の精霊の加護があらん事を。』

 そして、ゆっくりと目を開き

「いくぞ、我らヴァルエスタ庸兵団の恐怖を存分に敵に叩きつけてやれ!! 」

 ロナセリアを先頭に一斉にメイジ評議会本拠地へと雪崩れ込む。バリケードで守られた入り口を馬で軽々と飛び越えて、魔法が一斉に放たれても臆することなく。
 あまりにも勇敢で、あまりにも無謀な突撃は、敵に恐怖という二文字を脳裏に刻み込み、敵陣に辿り着く頃にはほとんどの敵が戦意を喪失する。

「メイジ評議会の者は一人残らず殺せ。決して逃がすんじゃないよ!! 」

 競り合うのは、最初のほんの僅かな間だけ。すぐに戦いから一方的な殺戮へと変わっていくだろう。怒号が悲鳴へ変わり、断末魔へと変わっていく。

 ロナセリアは、生物が息をするのと同じように敵を殺していく。幼少の頃より人を殺してきた彼女ならではと言っても良いだろう。少しでも何かに気を取られれば、それに囚われてしまう事を知っているのだ。

 斬った、痛い、殺す、殺される、恐怖、憎悪、生、死。

 考えは本能を鈍らせ、それによって攻撃に対する反応が遅れる。全ては流れるままに、ハープの調に合わせて踊るように、一瞬一瞬を生きてそれを繰り返す。

 * * * * *

 メイジ評議会に所属するマスター・セリバーは、覇権争いに興味がなかった。彼は魔法の研究をしたいだけだった。
 だが評議会に居る以上は、評議院の決定には従わなければならなかった。
 それでも、配属された部隊が戦場に赴く日には、得意の錬金術を使って病気に掛かった振りをして本拠地に留まるようにして難を逃れていた。

 だが今日は一体どういう事だ、とセリバーは思う。
 本拠地を取り囲むように布陣している者達が居る。当然、それは仲間であるはずがない。敵が本拠地に乗り込んで来たのだ。

「こんな事ならば、評議会を早々に見切りをつけたマスター・ムーイシュタインと共にニュジェルムビーチで羽根を伸ばせば良かった……。」

 無理矢理防衛の前線に連れて来られたセリバーは、本拠地の第二防衛ラインへと配備された。
 やがて怒号が本拠地中に鳴り響き、戦の始まりを知る。

 やり残した研究が山のようにある。

 だが目前に迫った金髪の女戦士は、既にセリバーの懐へと潜り込んでいた────。

 

The End

 

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